8/12週の展望です。
◾️ファンダメンタルズ観点の展望
・日銀は株価暴落の事態収拾のため、経済混乱時は利下げをしないと表明。
・結果、株価の下げ止まり、円高は止まり、下落前水準まで回復。
・アメリカはISM非製造業景況指数、失業率が想定を上回ったことで長期金利上昇。
・ユーロ圏はアメリカの金利乱高下の影響を大きく受けている。
・円高要素が増えてきているが、日銀の宣言により探り合いの状態になっている。
先週のドル円は週明けから急落。株価も狼狽売りが先行し、歴史的な暴落となりました。しかし、週末にはそれが嘘だったかのように、日常へと戻っています。
週明けのクロス円通貨は軒並み暴落。日銀政策金利決定会合における利上げ、及び継続的な利上げ宣言と、アメリカ雇用統計の悪化が重なり、円が買われる展開となりました。最大の要因は日米の金利差縮小見込みが強まったこと。アメリカは緊急利下げすらあり得るといった報道も見られ、焦った海外投資家も多かったかと思われます。結果、キャリートレードの解消、早いうちに日本株を売ってしまいたいといった海外投資家の思惑が先行し、円が買い戻される展開となり、また株価が暴落しました。
※引用:Bloomberg(画像クリックで記事にアクセス)
ドル円においては瞬く間に146円から141円まで下落する展開でしたが、結果的に招いたものは外国人投資家による日本株売り。改めて、円安は株高に大きく寄与しているのだな感じさせる流れとなりました。しかし、7月会合にて植田総裁は円安が物価上昇に寄与していると発言してしまいましたし、自民党としても少なくとも選挙のタイミングまでは円安になって欲しくはないでしょう。
一方、株安も大きな問題です。よって、株価暴落の翌日には日銀メンバーを招集し緊急会合を実施。翌日、日銀中村副総裁より「市場不安定な状況で利上げしない、当面現行緩和を継続する」との発表がありました。この宣言を文字通り受け取ると、金利はもう上げません、ということになります。上記で記述した通り、円高になると株安を招き市場が不安定になります。加えて、アメリカはこれから利下げを開始しますので、これまでのような一方的円安とはなり辛いでしょうから、今年見られたような株高状態にはなり辛いでしょう。また、恐らく会合前には株安にて利上げに反対を示すでしょうし、もし利上げした場合は再び株価の暴落を招く可能性が高いです。そういったリスクを考慮すると、日銀は非常に利上げをし辛くなったと言えます。
※引用:Bloomberg(画像クリックで記事にアクセス)
では、利上げタイミングが稚拙だったのかと言うと、利上げに踏み切った理由を裏付ける材料が出てきています。一つは会合時に発表した来年度の物価見通しの上振れ。もう一つは実質賃金の上振れです。先週、賃金統計の発表がありましたが、結果は、実質賃金:+1.1%、名目賃金+4.5%でした。この結果は、植田総裁の言うところの第二の力が強まってきていることを意味します。インフレが進んでいるアメリカでさえ、平均賃金は+3.6%です。ことさら日本においては、この名目賃金+4.5%という数字は相当高いと言えます。物価はインフレ率2%台後半を維持、来年度も2%超え予想となれば、賃金の大幅な上振れを加味した上で利上げを選択したというのは妥当だったのではないかと個人的には考えています。
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そういった思惑をPRする意図があったのかは分かりませんが、先週末には政策金利決定会合時に、利上げを段階的に実施する必要があるとの意見が出たと発表。中村副総裁による鳩派発言を少し緩和するような内容となっていました。
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それらの日本要因を受けた上で、アメリカの経済指標が上振れ緊急利下げ等の懸念が和らいだこともあり、日米金利差は再び拡大。再び円安基調へと戻った先週末の為替は147円台後半となっており、先週末時点に戻って来ています。株価についても先々週末時点の水準に戻っています。
今後、考えられるシナリオはやはりアメリカの利下げ、そして金利差縮小による円高。そうなった際、どれだけ株価が反応するのかがポイントになるかと考えています。自民党は選挙前にこれ以上、株価を下げたくないでしょう。よって、円高によって株価が下がっていった場合、今度は逆に円安誘導をするのではないかと考えています。その為、基本的には金利差縮小による円高傾向が見られるものの、大幅な円高にはなり辛いのではないかと考えています。もちろん、それは株価によりけりだと思われますので、先週も記述した通り今後の為替及び、日銀の動きについては、株価が重要になるのではないかと考えています。
アメリカでは、ISM非製造業景況指数、失業保険が改善したことで、前週の雇用統計の悪化を相殺。緊急利下げ疑惑を振り払うとともに、一時的に3.7%を切っていた長期金利も4%まで上昇しました。
先週明けには、急激的な円高及び、雇用統計の急激的悪化によって、全世界同時株安を招きました。しかし、日本の利上げしない宣言及び、材料結果が上ぶれたことにより、長期金利は上昇し、株価もある程度回復しています。月曜日にはFRBが緊急利下げを実施するとの思惑も強まりましたが、それは回避している状況です。
※引用:Bloomberg(画像クリックで記事にアクセス)
しかし、いずれにせよ今後の経済指標は下振れていくでしょう。その際重要になるのは、今年中に何回、そして何ポイント利下げを実施するか?になります。一時期は今年1回、0.25ポイントのみの利下げになると言われていましたが、現在はあと3回の会合で3回利下げするとの見方が主流です。となれば、日銀が利下げしなくとも確実に日米金利差は縮まりますし、それは少なからぬ円高圧力に繋がるのかなと考えています。よって、今年の残り5ヶ月に関しては、この3回の利下げという予想が上振れるか、下振れるか、というところが重要になると考えています。
ユーロ圏においては、重量材料の発表はありませんでした。しかし、アメリカの長期金利下落の煽りを受け、ユーロ圏においても同様に大幅に下落。しかし、その後はアメリカと同様に、行き過ぎた分をある程度戻しています。
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ユーロ圏におけるインフレ率は2%台でずっと安定していますし、経済指標も大きく悪化しているわけではありません。しかし、今後訪れるアメリカ経済の悪化による株価の下落や、実体経済への影響は大きいと思われます。よって、ユーロの状況というよりは、アメリカ等の他国の影響を受け、利下げを迫られる可能性がありそうです。9月のECB会合にて利下げを実施するかは未だわかりませんが、今後の株価等の下落具合を見て、利下げを実施する可能性は十分あるのかなと考えています。
纏めると、雇用統計の結果を受け、ドル円、株価は急落。日銀は経済が不安定な際は利上げをしない(実質的には出来ない)と宣言することで、その流れを断ち切りました。しかし、アメリカ経済が悪化していけば、日米金利差の縮小により、いずれは円高になっていくと思われます。
以上を考慮すると、ファンダメンタルズ的には円高要素が増えていきそうな印象が強いです。しかし、円高になり過ぎた場合、株価への影響等が大きくなってしまう為、政府・日銀の牽制には要注意です。短期的にはさまざまな思惑が交差し円安になる可能性もありますが、長期的な流れは円高に切り替わったのかなと考えています。