9/23週の展望です。
◾️ファンダメンタルズ観点の展望
・日銀は政策金利を0.25%で据え置いたが、鳩派発言が多く、円安に。
・アメリカはFOMCにて0.50%の利下げ。
・ユーロ圏は特に何もなし。
・ファンダメンタルズ的には円高要素が一旦、出尽くした感がある。
先週のドル円は週末に急騰。1か月ぶちに安値を更新しましたが、そこから一気に5円近く円安になっている状況です。
日本では日銀政策金利決定会合が開かれ、政策金利は0.25%に据え置かれるとの発表がありました。この内容については想定内でしたが、その後の会見は少々サプライズがあり、円が大きく売られる展開になりました。理由は植田総裁の「(利上げする為の)時間的余裕がある」、「経済はまだ不安定」という趣旨の発言。今後、インフレ圧力が落ちていくことがわかっている中で利上げする機会を伺っていれば、当然ながら利上げできる幅が狭まることになります。物価上昇が見られない状況で利上げすることはできませんから。そして、その理由として使えるのが経済が不安定な状況、というワードです。
※引用:Bloomberg(画像クリックで記事にアクセス)
7月会合時に利上げを実施した際の日銀のスタンスは、「中立金利まで利上げをする」でした。中立金利は1.0~1.5%程度とも言われており、7月会合時には中立金利までの利上げに対する強い決意を表明した為、急激的な株価下落を招きました(勿論、雇用統計の異常な結果の影響も大きい)。そして、先週も日銀関係者が金利を上げていく旨を発言しており、相場に折り込ませにいっている雰囲気が強く感じ取れました。しかし、今回の会見は明らかに鳩派な発言が多く聞かれました。特に「時間的余裕がある」という発言は、明らかに利上げに対して軟化した対応です。個人的にはこのスタンスの変化に対して違和感を覚えました。相場と対話をしていくとも発言していますが、利上げ方向で相場と対話していくなら、ここは7月からスタンスを変えずに利上げを相場に折り込ませるべきでは?と感じました。
このタイミングで鳩派に転じた理由は恐らく2点。1点目は想定よりも円高が進んでいる為、第一の力が弱まることで物価上昇圧力に陰りが見える可能性が高い点。2点目は同じく円高による株価下落を招かないようにしたいという点です。
為替の予測は非常に難しいですし、コントロールも出来ません。これまで政府・日銀は、金融緩和等でなるべく円安に持っていきつつ、かと言って円安になり過ぎないように口先・実介入をしながら為替のコントロールに努めてきたように思えます。しかし、コントロール不能な状況に陥り、結果的に過度な円安に繋がりました。ただ、今度は逆に円高方向に一気に触れ過ぎており、それによって経済に対してマイナス影響を及ぼす可能性があるというのが日銀の見解なのではないかと考えています。アメリカの経済失速や、想定以上の利下げペース予想等、更に円高に触れそうな材料が増えていきています。そんな中、日銀が鷹派スタンスを取り続ければ更なる円高進行を招く可能性があると考えているのではないかと思われます。
大きく円高に振れれば当然ながら第一の力は弱まりますので、物価上昇圧力が弱まり、来春の賃上げペースにも悪影響を及ぼします。そうなれば、当然ながら物価上昇率は下落するでしょうし、日銀想定より早く物価上昇率が下落してしまう可能性があります。日銀の目的はあくまで2%の物価上昇達成ですから、悪材料を増やし過ぎたくはないでしょう。
また、多くの大企業の今年度の為替想定は145円程度となっています。日産等150円以上に据え置いている企業もありますが、基本的には140円~145円ということで、それよりも円高になれば当然ながら決算は下振れる可能性が高まるでしょう。特に昨年は未曾有のペースで円安が進んだ為、海外売り上げ比の高い多くの企業は過去最高益を達成しました。それが逆に大きく円高に進んだ場合は当然、売り上げは前年比で大きく下ブレることになります。そうなれば株価にも悪影響を及ぼすでしょう。よって、140円を大きく割る展開というのは日銀は望んでいないのではないかと考えています。
※引用:Quick Money World(画像クリックで記事にアクセス)
ただ、利上げを完全に停止する訳ではないと考えています。7月の会見時で話していた通り、あまりにも金利を低いままにしておきたくはない、というのが植田総裁の本音でしょう。また、先週の日銀関係者の中立金利までの利上げをするという発言で為替があまり動かなかったところや、日銀は1%まで利上げを実施するという意見が大半だというエコノミスト調査を鑑みると、市場はある程度日銀の利上げを盛り込んでいるのではないかと思われます。
※引用:Bloomberg(画像クリックで記事にアクセス)
そう考えると、中立金利と言われている1.0~1.5%のレンジの最低ラインである、1.0%程度までは利上げ可能でしょう。よって、個人的にはその辺りまでは利上げするのではないかと考えています。勿論、想定以上に円高が進行したり、アメリカの経済悪化の煽りを受けて株価が下落した場合は利上げ回数も減少するかと思われます。しかし、あと数回の利上げは実施するのではないかと考えています。当初の利上げ想定ほどの利上げは実施しない(ゴールポストを動かした)が、利上げは継続するというのが個人的な見解です。ただ、10月は総裁選がある為、経済的に不安定という魔法の言葉を使用し、利上げを見送る可能性が高いと考えています。
アメリカではFOMCがあり、政策金利が0.50%引き下げられました。事前想定では直前に0.50%の利下げ想定が高まったこともあり、金利は大きな下落を見せていない状況です。
利下げ幅は個人的には想定外の0.50%でした。前週までは0.25%の利下げ想定が多かったですが、なぜか直前に0.50%、0.75%の利下げ想定が高まる展開に。もしかすると、日銀のようにFRBが事前に情報を流していた可能性も考えられますが、それによりサプライズは無し。また、パウエル議長が利下げは急ぐべきではないと発言したことで、発表とともに長期金利は一瞬下落しましたが、すぐに上昇しています。
※引用:Bloomberg(画像クリックで記事にアクセス)
※引用:Bloomberg(画像クリックで記事にアクセス)
0.50%の大幅利下げの理由として、インフレが落ちてきたこと、利下げへの強い決意を表す為、と発言しています。しかし、個人的には利上げの際のような後追いにならないようにする為、というのが主な理由なのではないかと考えています。
しかし、難しいのはここから。果たして素直にインフレ率が落ちてくれるのか?というのは誰にも分かりません。アメリカの強すぎる経済を見ていると、利下げを急ぎ過ぎたことでインフレが再燃する可能性もあります。また、トランプ氏が大統領に就任した場合、減税政策等でインフレ率が再び上昇する可能性もあります。その場合ドルが強くなる可能性が高い為、ドル安に持っていきたいトランプ氏の考えとは相反することになりますが、いずれにせよ経済は活性化する可能性が高いです。もしかすると、日本も煽りを受けて一層の利上げが必要になる可能性もあります。ただ、その辺りは不確定要素が多すぎる為、次回のFOMCにおける利下げ幅と、それに大きく影響する雇用統計の結果を待つ必要がありそうです。
ユーロ圏においては、特に大きなトピックはなし。長期金利はアメリカ長期金利上昇の煽りを受け、上昇している状況です。
EU10年債 ※引用:楽天証券
ユーロ圏はインフレ率も理想的な2%台を推移しており、経済も安定しています。フォルクスワーゲンの工場閉鎖などで若干陰りは見えるものの、まだ大きな問題は顕在化していません。急いで利下げをする必要も無いでしょうし、暫くは様子見かなと考えています。そうなれば政策金利が下落しないとの見方から長期金利は上昇傾向になる可能性が高い為、アメリカ長期金利が大きく下落しない限り、緩やかな上昇傾向を示すのでは無いかと考えています。
纏めると、日銀は政策金利を据え置くとともに、利上げペースを遅らせるかのような発言をしました。結果、円安に動いています。アメリカは0.50%の利下げをしていますが、事前の想定通りかつ、その後の利下げペースは緩やかになるとの見方から、長期金利は上昇しています。
以上を考慮すると、ファンダメンタルズ的には一旦、円高材料が出切ってしまった可能性があります。かといって、昨年のような無限円安に陥るほどの円安材料も無い為、緩やかな円安傾向が続く可能性がありそうです。