8/5週の展望です。
◾️ファンダメンタルズ観点の展望
・日銀は0.25%まで利上げ、国債買入減額プランを発表。
・今後も継続して利上げする可能性が高いとされている。
・アメリカは雇用統計が下振れたことで、次回FOCMでの利下げ確率が高まった。
・ユーロ圏は安定しているが、イギリスがサプライズで利下げ。
・キャリートレード巻き戻しによる円高が進んでいるが、巻き戻しに注意。
先週のドル円は日銀政策金利決定会合、そして雇用統計の結果を受けて急落。久しぶりの140円台に突入しました。
まずは日銀政策金利決定会合についてですが、結果は政策金利0.25%までの利上げ及び、国債買入減額について具体的なプランを示すという発表がありました。個人的には、国債買入減額プランを示すだけで利上げはしないだろうと考えていた為、この決定はサプライズでした。前日にはいつもの如くリークがありましたので、発表直後はそこまで動きませんでした。しかし、会見にて日銀が継続的に利上げする意思を示したこともあり、大きく円高方向へ動く展開となりました。
※引用:Bloomberg(画像クリックで記事にアクセス)
今回の決定は、「なぜ今?」と考える人が多い利上げだと思われます。日銀展望レポートにて、来年度のインフレ率を1.9%から2.1%に上方修正している為、目標とするインフレ率:2%を3年連続で超過し得るというのは利上げの理由になり得ます。一方、円安による物価高の影響を受け消費は落ちてきていますし、その他の経済指標についてもピークを超えて下落してきています。植田総裁は消費は底堅いと言っていますが、そうは言えない状況です。
通常であれば利上げをし辛い展開だと思われます。しかし、植田総裁としては「今後利上げできないリスク」、「大規模緩和を継続し続けなければならないリスク」の方が、低金利を維持し続けるメリットよりも大きいと捉えたのだと思われます。
日銀はアベノミクス以降の金融緩和を「異次元の緩和」と評しています。ある意味、自分たちで異常な状況と捉えているわけです。未だに10年間の金融緩和のレビューが出てきていませんが、この利上げはアベノミクスが終了し、異次元の緩和状態から軌道修正をしていくフェーズに入ったと捉えて良いのではないかと考えています。異常な低金利かつ、大規模緩和を継続し続けた場合に生じる最大のリスクは円安です。
ここ数ヶ月の一連の円安及び、財務省による数回の介入を見る限り、円安リスクについては相当気にしているように見受けられます。財務省は選挙を見据え実質賃金の上振れをアピールする為に、物価上昇の主要因となっている円安を止めようとしていた可能性もあります。しかし、日銀の場合はそのまま円安が続いた場合、通貨防衛に発展するリスクを憂慮していたと思われます。通貨防衛の為に利上げをするとなると、イギリス中央銀行とジョージ・ソロスの対決のように、トレーダーとの泥試合に発展する可能性が高いです。負けた場合は国内経済に大きなダメージを与えますし、歴史に名を残すことになります。そういったリスクを排除する為にも、敢えて円高に動いており、そしてまだ利上げが許され得るタイミングで異常に低い金利からの脱却を試みたのだと考えています(円安タイミングだと、円安を理由にしたと捉えられて攻防が始まる可能性がある為)。だからこそ、今回の会見では円安が物価上昇の要因であると素直に認められたのだと考えています。
また、日銀はこれまでの動きから、どうせ利上げはできない、と捉えられていました。日銀のバランスシート問題や、利下げしても緩和しても弱まり続ける個人消費、そしてマイナスのままの実質賃金。アメリカの利下げが始まれば、尚更、日銀は利上げ出来ない状況だと思われるでしょう。そういった日銀が動けない状況を見越して、円安が続いていた可能性もあります。仮にアメリカが利下げしても円安トレンドが万一続いた場合、通貨防衛に発展するかもしれません。それは最も避けるべきシナリオです。そういったシナリオを避ける為にも、日銀は利上げ出来ないという疑惑を払拭したかった、という説もあります。
日銀は会見にて追加で利上げする可能性を匂わせています。一部報道では、年度内にもう一度利上げするとも報道しており、ここで一気に低金利を脱却するのではないか?という見方が強いです。
※引用:Bloomberg(画像クリックで記事にアクセス)
ただ、やはりと言うべきか、予想通り株価は急落しています。これはアメリカのITバブル崩壊、経済悪化の影響も多分に受けていると思われます。植田総裁もついていないなと言わざるを得ませんが、この株価の急落によって植田総裁は後ろ指を刺されることになるでしょう。経済界からも圧をかけられると思われますので、そのような状況で果たして追加利上げが可能なのかどうかはクエッションだと思います。株価は底をつけばまた上昇すると思われます。しかし、どこまで落ちていくのか分かりませんので、その他の経済指標と併せて、株価も追加利上げ有無の一つの要因になるかもしれません。
※引用:Bloomberg(画像クリックで記事にアクセス)
アメリカでは、FOMC及び、雇用統計の発表がありました。FOMCは想定通り金利据え置きでした。一方、雇用統計は想定を大きく下回る結果になりました。結果、長期金利は急落しています。
FOMC後の会見にて、パウエル議長は9月の利下げについて割と触れていたなという感覚があります。もちろんあと二ヶ月ありますので、あと2ヶ月分の経済指標次第になります。しかし、雇用統計を見る限り、9月に利下げが行われる可能性は高そうです。
※引用:Bloomberg(画像クリックで記事にアクセス)
その雇用統計の結果は極めて悪いものでした。雇用は想定を大きく下回り、失業率は上昇、実質賃金も着実な下落が見られます。もはや利下げが遅かったと言われる可能性すら出てきており、9月FOMCではサプライズで0.50ポイント利下げする可能性すら出てきています。0.25なのか、0.50なのかは8, 9月の経済指標ですが、いずれにせよ、9月FOMCでの利下げは確実なものになったと考えています。
※引用:Bloomberg(画像クリックで記事にアクセス)
ユーロ圏においては、GDP及び、HICPの発表がありました。結果は微上昇。特に利下げを急かすような結果ではありませんでした。一方、イギリスはサプライズで利下げ。イギリスの利下げと、アメリカの長期金利の影響を受け、長期金利は大きく下落しました。
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ユーロ圏は理想的なインフレ率ですし、経済指標の急激的な悪化も見られない為、利下げを急ぐシチュエーションではありません。しかし、アメリカ経済が急悪化した場合、煽りを受ける可能性があります。その場合は、サプライズで利下げをするシチュエーションが生まれる可能性があります。どの程度影響を受けるのかは分かりせんが、今後の経済指標の変化には要注目かなと考えています。
纏めると、日銀の利上げ、アメリカの9月利下げ期待値の上昇を受け、ドル円は急落。昨年12月以来の本格的な下落トレンドへと繋がっています。アメリカは経済悪化が目立つ状況であり、また選挙のハリス氏優勢報道を受け、株価は大きく下落。これが他国へどう波及していくかは要注目です。
以上を考慮すると、ファンダメンタルズ的には円高要素が目立っていますが、とは言え、日本はまだまだ超低金利。このまま一方的に下落し続ける展開にはならず、ある程度、円安方向に戻していくのではないかと考えています。