4/29週の展望です。
◾️ファンダメンタルズ観点の展望
・日銀は現状維持を決定。円安容認発言もあり、急激的な円安へ。
・アメリカから介入しないよう圧がかかっている可能性があり、介入がどの地点で行われるのか未知数。
・アメリカは経済の減速感があるが、インフレ率は下がらない状況。
・ユーロにおいては多少の指標上振れにより、長期金利が上昇気味。
・更なる円安の風が吹く可能性が高い。
先週のドル円は158円後半まで上昇。いよいよ止まらない円安、といった状況になりつつあります。
先週の日本由来の大きなトピックは二つ。一つはアメリカのイエレン長官が為替介入に対して否定的な姿勢を示したこと。二つ目は日銀政策金利決定会合にて現状維持の方針が示されたことです。
まず、イエレン長官の発言に関してですが、為替介入は「まれ」であるべき、との発言でした。これにより、市場が期待していた為替介入への思惑は減退。ここ最近のクロス円通貨は、介入を警戒しているが為に、ジリジリと上値を試しながらゆっくりと円安進行していました。しかし、日本政府はイエレン長官にストップをかけられており、為替介入が出来ないのでは?といった疑惑が市場に広がりました。結果、防波堤を失ったことで加速する要因を作り出しています。
※引用:Bloomberg(画像クリックで記事にアクセス)
これは個人的な想定ですが、アメリカとしては二つの理由により、今は為替介入をして欲しくないのだと考えています。一つ目は中国によるアメリカの国債売りです。これによりアメリカ国債は更なる国債価格の下落、そして金利上昇トレンドが発生しやすくなっている状況です。為替介入の際にはドル調達の為、アメリカ国債を売ることになります。よって、日本にまでアメリカ国債を売られたくない為、否定しているというのが一つ目の理由です。
二つ目の理由はアメリカのインフレ率が下がっていない状況である為です。膨大な量のドルを売られれば緩和と同じようなものですから、インフレが進んでしまう可能性もあります。よって、アメリカサイドからしてみれば、このタイミングでの為替介入は辞めてくれ、というのが本音なのだと思われます。
ただ、イエレン長官が言う通り、「まれ」な状況の場合は為替介入をせざるを得ないと考えています。その「まれ」な為替水準がどの程度なのか?は分かりません。よって、個人的にはトレードをする上では為替介入を警戒しすぎない方が良いのではないかと考えています。(もちろん、万一に備えてエントリー時の損切り設定は必須)
二つ目の大きなトピックは日銀による、政策の現状維持表明です。前日にはいつものように日経新聞から、国債買入額の減額か?といった、リーク記事が出されました。それにより、事実上の引き締めに入るとの目論見が広がっていました。しかし、発表は現状維持。何も変更しない、というのが日銀の回答となりました。
日銀政策金利決定会合 声明文
唯一の変化点は物価の展望レポート。今年、来年の物価見通しにおいて、多少の上振れリスクを織り込んだと共に、2026年度の物価見通しを発表しました。ただ、相変わらず来年以降の物価上昇率は2%を超えないという見通し。よって、2%越えの基調的物価上昇を目指すべく、緩和を継続するという考え方になります。
日銀政策金利決定会合 声明文
この回答は、日銀は円安を理由に政策金利を変更することは無いと言う明確な意思表示だと考えています。仮に円安になれば利上げをする、と市場に思われた場合、円安に誘導しながら債券で儲けるといったこともできますし、市場の投機筋と戦うことになる可能性もあります。そういった戦いはしない、という意思表示の可能性があります。
また、思わせぶりな金利上昇の意思表示をした場合、それはそれで利用されてしまう可能性があります。為替介入をチラつかせた一連の口先介入のように、実態が伴わなかった場合、反動で更に状況を悪化させます。つまり、利上げについて踏み込んで発言してしまった場合、利上げをしなかった場合は一段と円安が進む可能性がある為、為替については関与しないという明確な意思表示をしたのだと考えています。
また、会見では基調的物価上昇率は2%は超えておらず、緩和的環境の継続が適切と述べています。それに対し、円安による物価高をどう見るか?といった問いかけがありましたが、総裁は円安による物価上昇(第一の力)は大きくなく、今のところ円安が物価に対して大きな影響は与えていないとしています。つまり、円安は心配していない = 円安で政策は変えない、という意思表示になります。よって日銀としては、アメリカが利下げをするまで、基本的にはこのまま待ちの姿勢である可能性が高いと考えています。
※引用:NHK(画像クリックで記事にアクセス)
これにより、当然ながら円安が進みました。結果、ドル円は154円から158円まで上昇。上記で触れたように為替介入への警戒感も和らいでいることもあり、一段と円安が進んで行ったという状況です。
こうなると、苦しいのは選挙を控えている自民党だと思われます。当然ながら賃上げ及び、実質賃金の上昇をアピールしたいところだと思われますが、このままだと間違いなく物価高は一段と進みます。輸入物価の高騰は数ヶ月のラグを経て、CPIに影響してくると思われます。そうすると、賃上げと、6月の減税(?)政策によって、実質賃金が上向き始めているというシナリオが崩れる可能性があります。また、一段と円安が進んだ場合、貧乏になっていく、といった動揺が国民にも広がりかねません。よって、これ以上の円安が進む場合、為替介入をしたいと考えていると思います。アメリカからはストップをかけられていると思われますが、もしかしたらその状況を「まれ」と捉え、介入をする可能性があります。その為、やはり警戒感は持っておいた方が良いと考えています。(ただし、気にし過ぎないことが重要)
アメリカにおいては、利下げが更に遠のいていっている状況です。先週はPMI、GDP、PCEデフレーターの発表がありました。PMI、GDPは想定を下回ったものの、PCEデフレーターは想定を上回り高止まりしているという結果に。経済の減速感を感じさせながら、インフレは高止まりしているというあまり良くない結果と言えます。結果、長期金利は一時的に4.7%程度にまで上昇しており、5.0%の大台が近づいてきています。
アメリカでは更なる利上げ論すら出始めており、もはや6月の利下げ確率は0%と言っても良い状況です。9月から利下げを開始するというのが主流ではありますが、もうすぐ利下げ開始すると言いながらずるずると1年が経過している為、それすら怪しい可能性があります。ただ、経済の停滞感は見え始めていますし、クレジット残高も増え続けている為、急激的に経済が減速する可能性もあります。利下げ開始の条件として、CPIの下落トレンドが必須と考えていますが、もしかしたら経済の急減速によって利下げせざるを得なくなる可能性もあるかもしれません。インフレの高止まりが続く場合は、そのパターンも頭に入れておいた方が良いかなと考えています。
また、時期大統領として有力なトランプ氏が円安、ドル高を批判する発言をしました。仮にこの傾向が続く場合、規制(日本企業に対する関税等)をかけるだろうし、(日本は)地獄を見ることになるだろう、とまで発言しています。以前から言われてはいましたが、トランプ氏はドル高を嫌う傾向がある為、仮にトランプ氏が大統領に就任した場合は、円安が和らぐ可能性があります。ただし、円が弱いことには変わりはない為、どこまで円高になるかは未知数です。そのあたりについて、相場はまだ織り込めていないと思いますので、今後のトランプ氏の発言によって相場が大きく動く可能性がありますので要注意かなと考えています。
※引用:Bloomberg(画像クリックで記事にアクセス)
ユーロにおいては、6月利下げ論が有力の中、先週発表のPMIは上振れとも下振れとも言えない結果になりました。結果、長期金利は微上昇している状況です。
EU10年債 ※引用:楽天証券
4月の経済指標にて、明確な下振れが確認されれば満場一致で6月利下げ論が支持されると思われますが、残念ながらここのところの指標は多少上振れの傾向にあります。よって、6月利下げ論を完全に折り込み切ってしまった相場としては、少しでも指標が上振れた場合、失望感が長期金利の上昇という形で現れます。ただ、あくまで重要なのはインフレ率だと思いますので、5月のHICPにて更なる下落が見られるかどうか?が重要になると考えています。仮に下振れ場合は6月利下げ論がほぼ確実となるでしょうが、高止まりするようであれば次回会合以降に持ち越しの可能性が持ち上がり、長期金利は上昇するかなと考えています。
纏めると、日本においては更なる円安要因を作る結果に。国債買入減額が期待される中、日銀は現状維持を決定したことで失望の円売りが広がりました。また、アメリカとの兼ね合いもあり、日本は介入できないのでは?といった疑惑も広がっており、更なる円安に拍車をかけている状況です。アメリカにおいては相変わらずインフレ指標が下落しない状況。ただし、経済は多少の減速感が見られます。ユーロ圏においてはここのところの指標が高止まりしていることから、利下げ時期の後ろ倒し疑惑も相場に広がり、長期金利が上昇している状況です。次回のHICPが鍵を握ることになりそうです。
以上を考慮すると、円は他国の動向に限らず、このまま売られ続ける展開になる可能性が高いです。仮に介入ができないのだとすると、一層拍車がかかる可能性が高いです。ただし、「まれ」な状況と判断されれば介入が入る可能性もある為、要注意です。円安については、日銀が利上げするか、アメリカの利下げが見えない限り、展開が変わる可能性が考えづらいかなという状況です。